伊賀・上野

芭蕉翁
松尾芭蕉は伊賀藤堂藩の出身、影隠密である、
「奥の細道」はその表の顔、とのうがった見方を
する者が一部に有ります


旅に病んで夢は枯野を駆け巡る


ここからは『大菩薩峠』から離れて、
小生の一人旅紀行です。

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史跡
鍵屋の辻
鍵屋の辻 河合又五郎
河合又五郎の首洗い

今はよほどの人でないと知る人も無い、日本三大仇討の一つ、姉婿荒木又衛門の助太刀で渡邊数馬はみごと河合又五郎の首を取った、伊賀越えの「鍵屋の辻」の一席です。仇討ちには藤堂藩の者が検死に立ち合い、すぐさま備前岡山藩に本懐が報告されたそうです。

 茶屋 鍵屋の辻公園内の万茶屋。
客の居ない店内であったので、注文したタヌキ蕎麦が出て来るまでの間、調理場の女将とカウンター越しに現況話を聞くことができました。ほとんど旅行者も少なくなって、店を開けると近くの住人が食事に来るそうです。
はるか遠くの神奈川くんだりからこんな処までやって来るのは、頓狂な年寄りしか居ない。
しかし、そんなところが面白い気儘な一人旅です。
 鍵屋御堂
伊賀越資料館

伊賀神戸
伊賀神戸駅

右も左も忍者の里です。
前日、八木のひなびた旅館に泊まり、朝早く近鉄大坂線に乗り、伊賀神戸で伊賀鉄道に乗り替えます。通学時間帯であったか、いわゆるJKたちと同乗になりましたが、なんということはない、リュックを背負ったおじじに気を惹くJKは居るはずもありません。

伊賀鉄道「西大手駅」で下車して、例によって道に迷って30分ほどして「鍵屋の辻」に到着です。
忍者列車
忍者列車

前も後ろも忍者の里です。


伊賀上野城
伊賀上野城

「鍵屋辻」から徒歩で中心地に向かいます。案内地図を片手にうろうろ歩くので30分はかかりました。何はなくとも城巡りは欠かせません。
上野城跡
城跡

上に建物の乗っていない城跡というものは風情が有ります。左の立派なお城からは歌は聞こえてきませんが、この石垣からは三橋美智也の「古城」が聞こえてきます。

  まつかぜさわぐ~、おかのうえ~
  こじょうよひとり、なに偲ぶ
  えいがの夢を む~ねにおい~
  ああ~、わびし、てん~しゅかく


横光利一記念碑>
『日輪』『旅愁』の横光利一が上野市にゆかりの人であるとは知りませんでした。歩いているとこんな石碑がひょっこり佇んでいました。調べてみると母親が伊賀市柘植町出身で、松尾芭蕉の家系を引くとあります。右の校舎に13歳で入学し、裏の城山で忍者ごっこで遊んだものでしょう。たいていの男は13歳頃までは神の子、それがいつの間にかワルになるのは誰のせいでしょう。 横光校舎
上野高校明治校舎(旧第三尋常中学校)

東西68メートルの長さとあります。

 芭蕉道
芭蕉への道


前夜は雨だったのか、道が濡れていました。
俳諧選集『猿蓑』は芭蕉の、初しぐれ猿も小蓑をほしげなり、の句からとった名前だそうです。茂みの中に猿の姿はありませんでしたので、小生に俳句は詠めません。
いよいよ松尾芭蕉に差し掛かりました。  俳聖殿中
俳聖殿中


芭蕉の有名な俳句に、
五月雨を集めて早し最上川、があります。
それとは別に教科書には絶対乗らない句に、
押し出せば押し出すままや竹夫人、があります。
竹夫人とは夏の風物詩抱き籠のことです。現代のダッチドール、地方めぐりをしていると自ら抱き籠になってもてなそうとする素封家の女人の門弟も居たのではないでしょうか。
ちなみに蕪村に、天にあらば比翼の籠や竹夫人、があります。
まさに両俳聖とも、昇天の気持ちを表している?

芭蕉像
芭蕉像


芭蕉翁記念館にある松尾芭蕉です。杖を持って立っていますが、水戸黄門ほどの老爺ではあるはずもないので、シャキッとしていて、旅に病んでいる姿ではありません。忍者と疑われたときの用心に、座頭市のような仕込み杖になっているのかも知れません。
山径を歩くときに、樫の棒など杖に持って歩くと「さあ、かかって来い」と不思議な勇気が湧いてきます。
あれはまだ見ぬものに対する、畏怖の武者震いなのでしょうか。
昔の餓鬼大将はたいてい棒切れを振り回していた。
棒切れが刀になり、鉄砲になり、ミサイルになり、核弾道になる。
どんどん強い物に頼らないと、生きて行けないとでも考えているのでしょう。
何も持っていない小生など、逆に恐い物は何もありません。恐いのは悪女の深情け……!
芭蕉生誕地松尾芭蕉生誕地 

  芭蕉木戸口木戸口

このような参観口とは驚きました。入ってすぐに案内の妙齢のご婦人の姿があったのにもびっくりでした。

庭芭蕉
芭蕉生家の庭のバショウ
後から植えたものでしょう。まさか元禄の時代から生き残っている庭の情景とも思えません。時代を越えて往時を再現させるのも現代人の思いやり、芭蕉の俳名はこの植物のバショウから採ったのでしょうか。
芭蕉室内芭蕉庵室内
実に静かで落ち着いた雰囲気にあふれています。このような佇まいに慣れぬ者には、俳句の世界には入り込めないでしょう。
高校生のときに、級友たちの一人が大声で発表した傑作、
 インド洋象飛び込む水の音
もちろん、何の句の駄洒落かわかりますよね!
駅名表示板駅名表示板

これも旅の記念の一枚です。
広小路広小路

帰りはこの駅から伊賀神戸に向かいました。

案内図
観光案内図では距離と高低差はわかりません。思いのほか時間がかかって骨が折れますが、すべては気楽な一人旅、何があっても何を見つけても独り占めの幸福感と心地よい疲労感に満たされます。
忍者館
忍者屋敷
室内ではどんでん返しや仕掛け戸などに驚きながら、皆と同じように歓声を上げて逃げ回ったものです。子供たちの隠れん坊の「鬼さん、こちら」になったような気分でした。




次回は五条・天誅組です。